ぶらり街かど
塩塚高原(徳島県三好郡山城町)

ふうっ・・・。ため息ばかりの毎日が続いていました。家族のことや仕事のこと、次々といろんな問題が勃発して、頭の中ぐちゃぐちゃ。逆境に強いはずの夫までも、「僕、厄年やもんなぁ」とため息まじりで、ぽつり。

なんとか気分転換をと、無理やり休みを作り、久々に夫と二人で、ドライブに出かけることにしました。目的は、秋先取りのススキ見物。3時間あまりかけてはるばる山城町の塩塚高原まで。

私は、真っ白い雲が浮かぶ、澄みきった秋空の下で、さわさわと揺れるススキをながめるのが好きです。国道から少々険しい山道を上がると、穂を出したばかりのススキがちらりちらりと目につき始めました。

わくわくしながらさらに30分ほど上がると、そこはもうあたり一面のススキ。ぐるりと山々に囲まれた塩塚峰をバックに、誇らしげに風になびいています。空と風と山とススキ野原・・・。そこには、ゆっくり流れるぜいたくな時間があります。

展望台のベンチに腰を降ろし、何にもせずに、ただただぼぉーっと周りをながめるだけの夫と私。そんな時間が、どれくらい流れたでしょうか。気が付くと、空にはどんより雨雲。展望台から少し下った所にあるキャンプ場管理棟に着いた頃には、なんと雷雨。でも雨に濡れるシーズンオフのキャンプ場も、妙に秋っぽくて、いいものです。

一時間もすると雨も上がり、そのまま帰ってしまうのがもったいなくて、もう一度、塩塚高原展望台へ。午前中のにぎわいがうそのように、誰一人いない高原。

今度は、塩塚峰頂上付近まで登ってみようと、背丈ほどあるススキをかきわけ、大自然二人占め気分でのんびりと散歩。ススキに埋もれながら空を見上げると、雲がどんどん流れていきます。みるみるうちに霧が晴れていきます。そして、現れた青空と白い雲。こんなに身近に天候の変化を感じることができたのは、初めてです。ほんとにゆったりした一日をありがとう。

また、慌ただしい日々が始まります。「とりあえず、目の前のことからやっていこ」と夫。塩塚高原での心地良い解放感を思い出しつつ、なんとか頑張っていけそうです。

1997年9月掲載


思い出して一言

この時期、いろんな事件があって、夫と二人疲れ果てていました。

そんな時、ススキが見え始めたという記事を読んで、ほんとにススキを見るだけの目的で夫とふたりで出かけました。いつもはいろんな人に会うのが楽しみなんですが、この時はあまり人と会話することもなく、ただただススキと空をながめただけだったように思います。

新聞掲載後、珍しくいろんな方から励ましの声をいただいてしまいました。やっぱり、文から何か伝わってしまったようです。(2000.2)


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